一人暮らしでは、食べることそのものだけでなく、
「買い物に行くのが大変になった」
「1人分を作るのがおっくうになった」
「最近、簡単なもので済ませることが増えた」
といった食事を準備するまでの負担が大きくなることがあります。
高齢者の食事は、「自炊できているか」「1日何回食べているか」だけで良し悪しを判断できるものではありません。
大切なのは、今の生活のどこに困りごとがあるのかを整理し、続けやすい方法へ置き換えることです。
この記事では、一人暮らしの高齢者本人と離れて暮らす家族に向けて、食事について確認したいポイントと、買い物・調理・孤食など困りごと別の対策を理学療法士の視点から整理します。
一人暮らしの高齢者の食事で、まず確認したいポイント
まずは、普段の食事や生活に以前と比べて変化がないか振り返ってみましょう。
- 最近、食事量や食事回数が以前より減っている
- 同じような食品や簡単な食事で済ませることが増えた
- 意図せず体重が減ってきた
- 買い物へ行ったり、荷物を持ち帰ったりすることが負担になった
- 献立を考えることや調理・片付けがおっくうになった
- 一人で食べることが増え、食事を楽しみに感じにくくなった
- 噛みにくさ、むせ、飲み込みにくさがある
- 家族など周囲の人から、普段何をどのくらい食べているか分かりにくくなった
これは診断や危険度判定のためのチェックリストではありません。
本人や家族が、「以前と何が変わったのか」「何が食事を続けにくくしているのか」を見つけるための確認ポイントとして使ってください。
一人暮らしで食事の困りごとが起こりやすい理由
買い物や重い荷物の持ち帰りが負担になる
食事を用意するには、まず食材を手に入れる必要があります。
しかし、
- 店まで移動する
- 店内を移動する
- 商品を選ぶ
- 重い食品や飲料を持ち帰る
といった一連の動作には、思っている以上に体力が必要です。
国内の一人暮らし高齢者を対象とした研究でも、買い物のしづらさには、店までの距離だけではなく、歩行のしづらさや視力、移動手段、買い物を手伝ってくれる人の有無などが関連していました。
理学療法士として生活を考えるときも、単に「歩けるか」だけではなく、買い物を済ませて荷物を持って帰宅できるかまで含めて考えることが大切です。
以前より買い物の回数が減った場合には、本人の意欲だけの問題と考えず、身体的な負担が大きくなっていないかも確認してみましょう。
1人分の献立・調理・片付けが負担になる
料理は、実際に調理している時間だけではありません。
何を食べるか考え、冷蔵庫の中身を確認し、必要な食材を準備し、調理して、最後に片付けるまで多くの作業があります。
一人暮らしでは、
「1人分だけ作るために、ここまで準備するのは面倒」
と感じることもあります。
また、立っている時間がつらくなったり、包丁や鍋を扱うことが負担になったりすれば、自炊そのものが大きな家事負担になる場合もあります。
自炊を続けること自体を目標にする必要はありません。
食事を無理なく続けるためには、「自分で行う部分」と「人やサービスに任せる部分」を分けて考えることも一つの方法です。
食事内容が単調になったり、食事量が減ったりすることがある
買い物や食事準備の負担が大きくなると、手元にある食品や簡単に準備できるものだけで済ませることが増える場合があります。
その結果として、似たような食事が続いたり、食べる量そのものが減ったりしていないかも確認したいところです。
食生活を整えるときは、特定の食品だけに注目するのではなく、食事全体の組み合わせを見ることが大切です。農林水産省の「食生活指針」でも、主食・主菜・副菜を基本に、多様な食品を組み合わせることが示されています。
毎食を完璧に整えようとして負担を増やす必要はありません。
ただし、同じような食品だけで済ませる状態が続いていないか、食べる量そのものが減っていないかは、ときどき振り返ってみるとよいでしょう。
孤食や人とのつながりの減少が食事に影響することがある
一人で食事をする「孤食」そのものを、悪いことと決めつける必要はありません。
一人でゆっくり食べる方が気楽だと感じる人もいます。
一方、日本の高齢者を対象とした研究では、一人で食べることと食品摂取の多様性の低さとの関連が報告されています。
大切なのは、無理に誰かと食べることではありません。
一人で食べることが本人にとって負担になっていないか、食事の楽しみや意欲が以前より低下していないかを見ることです。
体調や口の状態などの変化が食事に影響することがある
「食事を作らなくなった」「食べる量が減った」という変化があっても、その原因が一人暮らしとは限りません。
体調の変化、歯や口の問題、食欲の低下、むせや飲み込みにくさなどによって、食べること自体が負担になっている場合もあります。
そのため、「もっと自炊した方がよい」と本人の努力だけに任せるのではなく、生活上の負担なのか、食べること自体に変化があるのかを分けて考えることが大切です。
食欲や飲み込みなどに変化がある場合については、後ほど詳しく整理します。
困りごと別|一人暮らしの食事負担を減らす方法
食生活を整えるときに、すべてを本人が頑張る必要はありません。
減らしたいのは食事そのものではなく、食べ続けるために必要な負担です。
何に困っているのかによって、使いやすい方法は変わります。
買い物が大変なら、家族支援・買い物支援・宅配を組み合わせる
買い物へ行くことや荷物を運ぶことが大変なら、まず買い物そのものの負担を減らせないか考えてみましょう。
例えば、
- 家族が買い物を手伝う
- ネットスーパーや食材宅配を利用する
- 地域の移動販売や買い物支援を確認する
- 重いものだけ宅配にする
などがあります。
すべてを一つのサービスに任せる必要はありません。
「普段は自分で買い物をするが、米や飲料など重いものだけ届けてもらう」といった使い分けでも負担は変わります。
歩行や立位、荷物運搬の負担が大きくなっている場合には、無理にこれまでと同じ方法を続けるよりも、今の身体機能に合わせて生活の仕組みを変えることも大切です。
献立や調理が大変なら、惣菜・冷凍食品・ミールキット・配食を活用する
買い物には行けても、
「毎日献立を考えるのが大変」
「長時間台所に立っていられない」
「洗い物まで含めると負担が大きい」
という場合もあります。
そのようなときは、
- 市販の惣菜
- 冷凍食品
- カット済み食材
- ミールキット
- 配食サービス
などを組み合わせる方法があります。
ここでは、配食だけを特別な解決策として考える必要はありません。
例えば、主菜だけ惣菜を利用してご飯は自宅で用意する、疲れている日だけ冷凍食品を使うなど、本人が続けられる形を優先します。
「全部自炊する」か「全部サービスに任せる」かの二択にせず、負担の大きい部分だけ外へ任せる方法も考えてみましょう。
食事準備の負担が中心の場合は、後半で宅配サービスを含む選択肢も整理しています。
食事内容が偏りがちなら、自炊だけにこだわらず組み合わせを見直す
食生活を整えるために、必ず手の込んだ料理を作る必要はありません。
主食・主菜・副菜などの組み合わせや、同じような食品ばかりになっていないかを確認しながら、市販食品や惣菜も利用できます。
一人暮らしでは、食材を何種類も買うほど余らせやすくなることもあります。
自炊だけにこだわって負担が増えるより、無理なく食べられる方法を組み合わせ、食事を継続することを優先しましょう。
持病などにより食事内容について指示を受けている場合や、何を食べたらよいか判断が難しい場合には、主治医や管理栄養士などへ相談してください。
一人で食べることが負担なら、人と食べる機会も選択肢にする
一人で食べることが苦にならなければ、無理に変える必要はありません。
一方で、
「食事が楽しみではなくなった」
「人と話す機会がほとんどない」
と感じている場合には、本人が希望する範囲で、
- 家族や友人と食事をする
- 誰かが訪ねてきた日に一緒に食べる
- 地域の会食や交流の場を利用する
といった方法もあります。
大切なのは、「孤食だから悪い」と考えることではなく、一人で食べることが本人の負担になっていないかを見ることです。
見守りや生活全体の支援が必要なら、地域の相談窓口を確認する
食事だけでなく、
「買い物も掃除も大変になってきた」
「離れて暮らしているので普段の様子が分からない」
「どのサービスを利用できるのか家族だけでは判断できない」
という場合には、地域の相談窓口を利用する方法があります。
地域包括支援センターは、市町村が設置する高齢者の総合相談などを担う機関です。
高齢者本人や家族からの相談を受け、必要に応じて適切な機関・制度・サービスへつなぐ役割があります。
また、市町村では地域の実情に応じて、介護予防や日常生活を支えるさまざまな取組が行われています。
利用できる内容や対象は地域によって異なるため、本人や家族だけで支援方法を決めにくい場合は、住んでいる地域の地域包括支援センターや自治体窓口へ確認してみましょう。
ここまでのような生活上の工夫で負担を減らせる場合もありますが、食欲の低下・体重減少・むせなどの変化がある場合は、サービス選びより先にその変化を確認することが大切です。
一方、こうした変化がなく、買い物・献立・調理など食事準備の負担が中心の場合は、必要な食形態に合わせて宅配を含む選択肢を確認できます。
食事量低下・体重減少・むせがあるときは、サービス選びより先に確認する
ここまで紹介した方法は、主に買い物・献立・調理など、生活上の負担を減らすための工夫です。
一方で、食べられない原因が生活負担だけとは限りません。
食欲や食事量、体重、飲み込みなどに変化がある場合には、宅配などのサービスを選ぶ前に、その変化自体を確認することが大切です。
食欲そのものが落ちている・食事量や体重が減っている
「食事を作るのが面倒」というだけではなく、
- 食欲そのものがない
- 以前より食べる量が明らかに減った
- 意図せず体重が減っている
といった変化がある場合は、食欲不振や体調変化について確認する必要があります。
原因は一つではなく、病気、薬、歯や口の状態、飲み込み、心理面、生活環境などさまざまです。
高齢者の食欲不振で考えられる原因や受診の目安、家庭でできる対策は、以下の記事で詳しくまとめています。
むせる・飲み込みにくい
食事中にむせる、飲み込みにくい、食べることに時間がかかるなどの変化がある場合には、単に「やわらかい物へ変えればよい」とは限りません。
本人に合う食形態は、噛む力だけではなく、飲み込む働きや食べ物のまとまりやすさなどによっても変わります。
自己判断で刻み食・ミキサー食・とろみなどへ一律に変更するのではなく、まず症状や相談の目安を確認してください。
むせや飲み込みにくさの原因、受診を検討したいサインについては、以下の記事で詳しく解説しています。
必要に応じて、医師、歯科医師、言語聴覚士、管理栄養士などへの相談を検討しましょう。
一方、本人に必要な食形態がすでに分かっていて、困っているのが「その食事を毎回用意すること」であれば、次のように食事準備の方法を考えます。
食事準備の負担が中心なら、必要な食形態に合わせて選択肢を分ける
体調や食欲などに確認が必要な変化がなく、中心的な困りごとが買い物・献立・調理などの食事準備の負担であれば、宅配サービスも選択肢になります。
その際は、現在食べているものだけで判断せず、本人に食形態への配慮が必要かどうかで分けて考えます。
普通食を無理なく食べられるなら、高齢者向け宅配弁当も選択肢
特別な食形態への配慮が必要なく、普段の普通食を無理なく食べられているものの、
買い物・献立・調理・片付けの負担が大きい
という場合には、高齢者向け宅配弁当を利用する方法があります。
宅配弁当には、冷凍でまとめて届くものや、冷蔵で定期的に届くものなどがあり、料金・送料・受け取り方法もサービスによって異なります。
この記事では個別サービスの比較は行いません。
具体的に利用を検討する段階になったら、生活状況に合うサービスを比較して選びましょう。
やわらか食など必要な食形態が分かっていて、調理が負担なら宅配も選択肢
一方、医療・介護の専門職から説明や助言を受けるなどして、本人に必要な食形態がある程度分かっていても、それを毎回用意することが負担になる場合があります。
やわらかさやまとまりなどに配慮した食事では、本人用の食事を別に用意する必要があるなど、一人暮らしの本人だけでなく、支える家族の負担が大きくなることもあります。
そのため、現在は普通食で済ませていたとしても、本来必要とされている食形態が分かっているのであれば、「今食べているもの」だけを基準にサービスを選ばないことが大切です。
必要な食形態が分かっているものの、自宅で作り続けることが難しい場合には、介護食・やわらか食の宅配を利用する方法もあります。
ただし、むせや飲み込みにくさがあり、本人にどのような食形態が合うか分からない場合は、商品を先に選ばないでください。
その場合は、前の「むせる・飲み込みにくい」の項目で、症状や相談の目安を確認することを優先します。
まとめ|一人暮らしの食事は「自炊するか」ではなく、続けられる仕組みで考える
一人暮らし高齢者の食事では、「本人がもっと頑張って料理する」ことだけが解決策ではありません。
まず、
- 買い物が大変なのか
- 献立や調理が負担なのか
- 食事内容や食事量が変わっているのか
- 一人で食べることが負担なのか
- 食欲や飲み込みなど体の変化があるのか
を整理することが大切です。
そのうえで、家族支援、買い物支援、惣菜や冷凍食品、地域サービス、配食などを必要に応じて組み合わせます。
宅配を検討する場合も、本人の状態と必要な食形態に合わせて選択肢を分けます。
普通食を無理なく食べられていて、食事準備の負担が中心なら高齢者向け宅配弁当の比較へ。
必要な食形態が分かっていて、その食事を作り続けることが負担なら介護食・やわらか食の宅配比較へ。
食欲や体重の変化があれば食欲不振の記事へ、むせや飲み込みにくさがあり必要な食形態が分からなければ、まず症状と相談の目安を確認する記事へ進みましょう。
一人暮らしを続けるためにも、「これまでと同じ方法を続けること」ではなく、今の身体状態と生活に合わせて、食事を続けやすい仕組みを作ることを考えてみましょう。
参考文献
- 農林水産省「食生活指針について」
- 農林水産省「食育の推進に役立つエビデンス(根拠)―共食をするとどんないいことがあるの?」
- 厚生労働省「地域高齢者等の健康支援を推進する配食事業の栄養管理に関するガイドライン」
- 厚生労働省「地域包括ケアシステム/地域包括支援センター」
- 厚生労働省「介護予防・日常生活支援総合事業」
- Ishikawa M, et al. Food Accessibility and Perceptions of Shopping Difficulty among Elderly People Living Alone in Japan. J Nutr Health Aging. 2016;20(9):904-911.
- Tanaka I, et al. Relationship between eating alone and dietary variety among urban older Japanese adults. Nihon Koshu Eisei Zasshi. 2018;65(12):744-754.






