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高齢者が飲み込みにくい・むせる原因は?嚥下機能低下のサインと受診の目安

高齢者の嚥下機能を知ろうのアイキャッチ 体の情報

「最近、食事中にむせることが増えた」
「水やお茶を飲むと、よく咳き込むようになった」
「以前より食べ物を飲み込みにくそう……」
「食事に時間がかかり、途中で疲れるようになった」

このような変化があると、「年齢のせいなのかな」「このまま様子を見ても大丈夫?」と心配になる方もいるでしょう。

高齢になると、口や喉など飲み込みに関わる機能は変化します。しかし、むせや飲み込みにくさの原因は加齢だけではありません。 歯や口の状態、全身の衰え、病気など、さまざまな要因が関係することがあります。

また、「むせる」だけが飲み込みの変化ではありません。食事に時間がかかる、途中で疲れる、食事量が減るといった変化にも目を向けることが大切です。

この記事では、高齢者が飲み込みにくくなる原因や気づきやすいサイン、医療機関へ相談した方がよい場合、家庭で確認したいポイントについて、理学療法士の視点も交えて解説します。

食事中のむせはなぜ起こる?飲み込みとの関係

食べ物や飲み物を口から胃まで送り込む一連の働きを「嚥下(えんげ)」といいます。

嚥下には、食べ物を認識する、口に運ぶ、噛んでまとめる、喉へ送る、食道から胃へ運ぶといった複数の働きが関係しています。

そのため、飲み込みにくさや食事中のむせには、口や歯、筋肉や神経、全身状態など、さまざまな要因が関係します。

むせは飲み込みの変化に気づくサインの一つ

食事中の「むせ」は、食べ物や飲み物などが気道に入ったときなどに、それを外へ出そうとして起こる反応です。

ただし、「むせた=必ず誤嚥した」というわけではありません。

誤嚥とは、食べ物や飲み物などが声帯を越えて気管側へ入ることです。誤嚥のほかにも、飲食物が気道の入り口付近まで入り込んだ場合や、喉に残ったものが影響した場合などに、むせることがあります。

一方、誤嚥していても、はっきりとむせない場合があります。このように、誤嚥していてもむせなどの目立った反応がみられない状態を「不顕性誤嚥」といいます。

そのため、「むせるかどうか」だけではなく、食事中や食後の様子を全体として見ることが大切です。

高齢者が飲み込みにくくなる主な原因

高齢者が飲み込みにくくなる原因は一つではありません。

加齢による変化だけでなく、歯や口の状態、病気、全身状態など、複数の要因が重なっていることもあります。

加齢による口や喉の機能の変化

年齢を重ねると、噛む、食べ物をまとめる、喉へ送るといった、食べるために必要な機能にも変化が生じます。

唾液が少なくなって口の中が乾きやすくなったり、舌や口の動き、飲み込みに関わる筋肉や感覚などに変化がみられたりすることがあります。

ただし、むせや飲み込みにくさをすべて「年齢のせい」と決めつけることはできません。

以前にはなかった症状が続いている場合には、ほかの原因も含めて確認することが重要です。

歯・入れ歯・口の中の状態

食べ物を飲み込む前には、噛んで唾液と混ぜ、口の中でまとまりやすい状態にする必要があります。

そのため、

  • 歯が抜けている
  • 入れ歯が合っていない
  • 噛むと痛みがある
  • 口の中が乾燥している
  • 舌や頬を動かしにくい

といった問題があると、食べ物を噛んだり、まとめたりしにくくなることがあります。

飲み込みにくさを考えるときは、喉だけでなく口の中の状態も確認することが大切です。

脳卒中や神経疾患など病気の影響

飲み込む動作には、脳や神経、筋肉などが関わっています。

そのため、脳卒中やパーキンソン病などの神経疾患をはじめ、さまざまな病気によって飲み込みにくさが生じることがあります。

また、喉や食道の炎症や狭窄など、食べ物の通り道そのものに問題がある場合もあります。

同じ「飲み込みにくい」という症状でも、原因は人によって異なります。

フレイル・サルコペニアなど全身状態の影響

高齢者の食事を考えるときは、口や喉だけでなく、全身状態にも目を向ける必要があります。

フレイルやサルコペニア、病気や入院による活動量の低下、低栄養などは、食べるために必要な身体機能に影響することがあります。

高齢者の摂食嚥下障害には、サルコペニアだけでなく、併存疾患や低栄養、日常生活活動の低下など複数の要因が関係することも報告されています。

また、飲み込みそのものだけでなく、

  • 座って食事を続けると疲れる
  • 食事の後半になると姿勢が崩れる
  • 最後まで食べきれない

といった形で、食事動作全体に影響が現れる場合もあります。

理学療法士として食事場面を見る場合にも、飲み込みだけではなく、姿勢や体力、活動量などを含めて全身から考える視点が重要です。

嚥下とは?食べ物が胃へ届くまでの5期

「嚥下」というと、喉でゴクンと飲み込む瞬間をイメージするかもしれません。

しかし、食べることは、食べ物を認識し、口へ運び、噛んでまとめ、喉を通して胃へ送るまでの一連の動作です。

この流れを理解する考え方の一つに「5期モデル」があります。

段階どのような時期?
先行期食べ物を認識し、口へ運ぶまで
準備期食べ物を口に取り込み、噛んで飲み込みやすい状態にまとめる
口腔期舌などを使って食べ物を口から喉へ送り込む
咽頭期食べ物を喉から食道へ送り込む
食道期食べ物を食道から胃へ運ぶ

5期モデルで考えると、飲み込みにくさは喉だけの問題とは限らないことが分かります。

なお、実際の食事では、これらの段階が常に明確に分かれて進むわけではありません。5期モデルは、食べる一連の流れを理解しやすくするための考え方として捉えてください。

飲み込みの変化に気づくためのサイン

摂食嚥下機能の低下は、「むせ」だけでなく、食事時間や食べる量などの変化として現れることがあります。

本人や家族は、次のような変化がないか確認してみましょう。

  • 食事中にむせることが増えた
  • 水やお茶などの飲み物でむせやすくなった
  • 食べ物を飲み込みにくそうにしている
  • 食べ物が口の中に残ることが増えた
  • 食べ物が喉や胸につかえる感じがある
  • 食事に以前より時間がかかるようになった
  • 食事の後半になると疲れてくる
  • 最後まで食べきれず、食事量が減ってきた
  • 食後に痰が絡んだような声、ガラガラした声になる
  • 意図せず体重が減ってきた

これらは、摂食嚥下障害を疑うサインです。

ただし、「何個当てはまれば嚥下障害」と数だけで判断するものではありません。以前にはなかった変化が続いている場合には、かかりつけ医へ相談しましょう。

特に食事時間については、単に「何分かかったか」だけでなく、

食事に時間がかかる
→ 途中で疲れる
→ 最後まで食べきれない
→ 食事量が減る

という変化がないかを見ることが重要です。

食事に時間がかかる原因は飲み込みだけではなく、噛みにくさ、食事動作のしにくさ、姿勢を保つ負担、全身の疲労、食欲低下などさまざまです。

そのため、以前より時間が長くなっていないか、疲れ方や食事量にも変化がないかを合わせて確認しましょう。

飲み込みにくさが続くと起こる可能性があること

飲み込みにくさが続くと、誤嚥だけでなく、食事量の低下や生活への影響につながることがあります。

誤嚥や誤嚥性肺炎

誤嚥したからといって、必ず誤嚥性肺炎になるわけではありません。

誤嚥性肺炎には、誤嚥だけでなく、口の中の細菌や全身状態など複数の要因が関係します。

そのため、「一度むせたから肺炎になる」と過度に心配する必要はありません。

一方、飲み込みに問題がある状態が続いている場合には、誤嚥性肺炎につながる可能性もあるため、必要な評価につなげることが大切です。

食事量の低下・低栄養・脱水

飲み込みにくくなると、食事そのものが負担になることがあります。

食事に時間がかかって疲れたり、「むせるのが怖い」と食事や水分を控えたりすると、摂取量が減ることがあります。

食事量が少ない状態が続けば低栄養に、水分摂取量が減れば脱水につながる可能性があります。

高齢者では、

食事量が減る
→ 低栄養や体力低下につながる
→ 活動量が減る
→ さらに食事が負担になる

という悪循環にも注意が必要です。

食べる楽しみや生活への影響

食事は、栄養や水分をとるためだけのものではありません。

好きなものを食べたり、家族や友人と食卓を囲んだりすることも生活の楽しみです。

しかし、むせへの不安や食事中の疲労などが続くと、食事そのものが負担になったり、人と一緒に食べることを避けたりすることもあります。

飲み込みの問題を考えるときは、必要な栄養や水分をとれるかだけでなく、その人が食事を続けやすいかという視点も大切です。

こんなときは医療機関や専門職へ相談を

前述したような、むせや飲み込みにくさ、食事時間の延長、食事量・体重の減少などが続いている場合は、まずはかかりつけ医へ相談しましょう。

家庭で原因を決めつけるのではなく、必要に応じて専門的な評価につなげてもらうことが大切です。

急に飲み込みにくくなったときは、ほかの症状にも注意

飲み込みにくさが突然現れた場合は、慢性的な変化とは分けて考える必要があります。

  • 顔の片側が動きにくい、しびれる
  • 片方の腕や脚に力が入りにくい
  • ろれつが回らない、言葉が出にくい
  • 急に立っていられないほどふらつく
  • 意識の状態がおかしい

どこに相談すればよい?

むせや飲み込みにくさが続いている場合は、まずは普段の病気や体の状態を把握しているかかりつけ医に相談しましょう。

飲み込みにくさの原因はさまざまなため、必要に応じて専門の診療科や医療機関へ紹介されることがあります。

摂食嚥下機能については、必要に応じて嚥下造影検査(VF)嚥下内視鏡検査(VE)などを用いて詳しく確認する場合もあります。

受診時には、

  • いつ頃から変化があるか
  • 急に始まったのか、徐々に変化したのか
  • どのような食べ物・飲み物で問題が起きるか
  • 食事時間や食事量、体重に変化があるか
  • これまでに肺炎や誤嚥性肺炎と診断されたことがあるか

などを伝えると、状況を把握する手がかりになります。

家庭では食事の様子と環境を確認することから

家庭でまずできるのは、どのようなときに食べにくさが起きるのかを観察し、無理なく食事を続けられる環境を整えることです。

何を食べたとき・どのタイミングで変化があるかを見る

たとえば、

  • 水分でむせるのか、固形物で起こるのか
  • 特定の食品で起こるのか
  • 食事の最初と後半で違いがあるか
  • 口の中に食べ物が残っていないか
  • 食後に声が変わらないか
  • 食事の後半で疲れていないか

などを確認してみましょう。

こうした「以前との違い」は、かかりつけ医へ相談するときにも役立ちます。

食事中にむせた場合は、無理に次の一口を続けず、いったん食事を止めて呼吸が落ち着くのを待ちましょう。

食事の後半まで無理なく姿勢を保てているか確認する

食事では、一定時間座り、頭や体を支えながら、食べ物を口まで運ぶ動作を繰り返します。

そのため、食事を続けられる姿勢の安定性や体力も重要です。

たとえば、

  • 座っているうちに体が傾いてくる
  • お尻が前へずれてくる
  • 頭を支えにくくなる
  • 食事の後半になると姿勢が崩れる
  • 息切れや強い疲労がみられる

といった変化がないか確認しましょう。

「顎を引けばよい」「背筋を伸ばせばよい」と一つの姿勢を全員に当てはめるのではなく、まずは苦痛が少なく、体が大きく崩れず、食事を続けられているかを見ることが大切です。

食事中に姿勢が大きく崩れる、座っているだけで疲れるなどの問題がある場合は、まずはかかりつけ医に相談しましょう。

すでに介護保険サービスや訪問リハビリ、通所リハビリなどを利用している場合は、担当のケアマネジャーやリハビリ専門職に食事場面について相談する方法もあります。

食事に集中しやすい環境を整える

食事中に周囲へ気を取られやすい場合は、

  • テレビなど大きな刺激を減らす
  • 落ち着いて食事ができる環境にする
  • 急いで食べるよう促さない
  • 疲れているのに無理に食事を続けさせない

など、本人が食事に集中しやすい環境を整えることも大切です。

口の中を清潔に保つ

歯磨きや入れ歯の清掃など、日頃から口の中を清潔に保つことも重要です。

また、入れ歯が合わない、歯や歯ぐきが痛い、口の乾燥が強いといった問題は、食べにくさにつながることがあります。

気になる口腔内の問題がある場合は、歯科医師や歯科衛生士に相談しましょう。

飲み込みにくいときは食べ物や飲み物を調整することもある

飲み込みにくさがある場合には、その人の状態に合わせて、食べ物の硬さやまとまりやすさ、飲み物の流れやすさなどを調整することがあります。

たとえば、食べ物を噛みやすく、口の中でまとまりやすい状態にした「やわらか食」や、飲み物などに粘度をつけて流れ方を調整する「とろみ」などがあります。

ただし、飲み込みにくい人全員に同じ調整が合うわけではありません。

たとえば、

  • やわらかくても、ばらばらになりやすい食品は食べにくいことがある
  • 細かく刻めば食べやすくなるとは限らない
  • とろみをつければすべての人が飲みやすくなるわけではない
  • とろみは濃いほどよいわけではない

といった点があります。

大切なのは、本人の飲み込みの状態に合った食形態やとろみを検討することです。

「やわらか食とはどのような食事なのか」「食べ物のやわらかさやまとまりやすさ、とろみをどう考えるのか」については、以下の記事で詳しく解説しています。

まとめ

高齢者のむせや飲み込みにくさには、加齢だけでなく、口や歯の状態、病気、全身状態などさまざまな要因が関係します。

また、むせだけでなく、食事時間の延長、途中での疲労、食事量や体重の減少なども、摂食嚥下機能の低下を疑う大切なサインです。

こうした変化が続いている場合は、まずはかかりつけ医へ相談しましょう。

家庭では、食事中の「以前との違い」を観察し、姿勢や体力、食事環境も含めて、無理なく食事を続けられているかを見ることが大切です。

食べ物や飲み物を調整する必要がある場合も、本人の状態に合った食形態やとろみを検討していきましょう。

飲み込みにくさを年齢だけのせいにせず、食事全体の変化に気づき、必要な相談や対応につなげることが大切です。

参考文献・参考情報

  • 日本摂食嚥下リハビリテーション学会「嚥下調整食学会分類2021」
  • 日本摂食嚥下リハビリテーション学会「嚥下調整食学会分類2021 Q&A」
  • 日本摂食嚥下リハビリテーション学会 eラーニング「摂食嚥下の5期モデル」
  • 国立長寿医療研究センター「摂食嚥下障害」
  • 国立長寿医療研究センター「むせについて」
  • 国立長寿医療研究センター「不顕性誤嚥について」
  • 厚生労働省「上手な医療のかかり方|こんなときは迷わず119へ」
  • 前田圭介.サルコペニアの摂食嚥下障害.日本老年医学会雑誌.2024;61:382-392.
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