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【理学療法士直伝】高齢者の体力維持に必要な運動と栄養

体の情報

「最近、以前より歩くのが遅くなった」
「椅子から立ち上がるのが大変になった」
「外出する機会が減り、食事量も少なくなってきた」・・・

高齢になると、筋力やバランス能力だけでなく、活動量や食事量の低下が重なり、体力が落ちやすくなります。

高齢者の体力を維持するために大切なのは、無理のない範囲で身体を動かすことと、活動を支えるための食事・栄養を確保することです。

この記事では、高齢者のリハビリテーションに携わる理学療法士の視点から、体力を維持することがなぜ大切なのか、どのくらい身体を動かせば良いか、自宅ではどのような運動ができるのか、食事は何を意識すれば良いのかを分かりやすく解説します。

全てを一度に始める必要はありません。現在の体力や体調に合わせて、できることから少しずつ取り入れていきましょう。

高齢者の体力維持が大切な理由

体力低下が続くとフレイル・要介護につながることも

高齢になると、若い頃と比べて筋力やバランス能力などが低下しやすくなります。

さらに、外出する機会が減る、家の中で座って過ごす時間が増えるといった生活が続くと、

身体を動かさない

筋力や体力が低下する

動くことがさらに大変になる

ますます身体を動かさなくなる

という悪循環に陥ることがあります。

その先にあるのが、健康な状態と要介護状態の中間に位置するフレイル(虚弱)です。

フレイルの流れを示す図

厚生労働省も、フレイルには可逆性があり、栄養・身体活動・社会参加を組み合わせて予防することが重要としています。

だからこそ、「まだ元気だから大丈夫」と考えるのではなく、自分で動けているうちから今の体力を維持していくことが大切です。

転倒・骨折が生活機能低下のきっかけになることも

もう一つ、高齢者の体力維持を考えるうえで無視できないのが転倒です。

筋力やバランス能力が低下すると、ふらついたときに姿勢を立て直すことが難しくなり、転倒につながることがあります。

高齢者では、転倒をきっかけに骨折し、入院や活動量の低下を経て、それまでできていた生活動作が難しくなるケースもあります。

転倒により要介護リスクが上昇することを示す図

もちろん、転倒した人が必ずこの経過をたどるわけではありません。

しかし、厚生労働省の2025(令和7)年国民生活基礎調査では、「骨折・転倒」は介護が必要となった主な原因の14.6%を占めており、主要な原因の一つとなっています。

「転ばないための身体づくり」は、単なる運動不足対策ではなく、今の生活を長く続けるための重要な取り組みと考えられます。

体力を保つ目的は「今の暮らし」を続けること

体力を維持する目的は、単に筋肉を増やすことではありません。

たとえば、

  • 旅行や趣味を楽しむ
  • 友人や家族と出かける
  • 自分で食事や身の回りのことをする
  • 自分で買い物に行く
  • 家の中を安全に移動する

理学療法士として高齢者のリハビリテーションに関わっていると、「筋力がどれだけあるか」だけでなく、その体力を使って何をしたいのかを考えることがとても重要だと感じます。

運動を「やらなければいけないもの」にするのではなく、

「これからも○○を続けたいから身体を動かそう」

と、生活の目的と結びつけて考えてみましょう。

高齢者はどのくらい身体を動かせばいい?

「運動が大切なのは分かったけれど、結局どのくらいやればいいの?」

という疑問を持つ方も多いと思います。

厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、高齢者について次の目安が示されています。

内容目安
日常の身体活動歩行または同程度以上の身体活動を1日40分以上
約6,000歩以上相当)
多要素運動
(筋力・バランス・柔軟性など)
週3日以上
筋力トレーニング週2〜3日
身体活動が少ない方まずは今より少しでも多く身体を動かす

ここで大切なのは、「6,000歩以上歩かなければ意味がない」ということではない点です。

身体機能や持病、これまでの運動習慣には大きな個人差があります。

厚生労働省も、推奨量に届かない場合であっても、現在より少しでも身体活動を増やすことを勧めています。

また、「1日40分」は40分間連続してウォーキングをしなければならないという意味ではありません。

買い物に行く、掃除をする、料理をする、外出するなど、日常生活の中で身体を動かすことも身体活動に含まれます。

まずは、

「今より5〜10分多く歩いてみよう」
「座っている時間を少し減らそう」

くらいから始めても構いません。

理学療法士がすすめる自宅でできる運動

高齢者の運動では、ウォーキングだけを行えばよいわけではありません。

厚生労働省は、筋力・バランス・柔軟性など、さまざまな要素を組み合わせた運動を推奨しています。

まずは次のような運動を組み合わせてみましょう。

目的取り入れやすい方法
活動量を増やす散歩、買い物、掃除、料理
下肢筋力椅子からの立ち上がり、かかと上げ
バランス片脚・継ぎ足立ち、継ぎ足歩行、前後・左右へのステップ
持久力ウォーキング、エアロバイクなど

日常生活の中で身体を動かす

運動というと、トレーニングウェアに着替えてウォーキングをしたり、筋トレをしたりするイメージがあるかもしれません。

しかし、高齢者の体力維持では、まず日常生活の活動量を減らさないことも重要です。

たとえば、

  • 近所まで歩いて買い物に行く
  • 掃除をする
  • 洗濯物を干す
  • 庭仕事をする
  • 家の中をこまめに移動する

といった活動も立派な身体活動です。

特別な運動を始めることが難しい方は、まず「座っている時間を少し減らす」ところから始めてみましょう。

椅子からの立ち上がり

日常生活でも重要なのが、椅子から立ち上がる動作です。

椅子からの立ち上がり運動

安定した椅子に座り、

  1. 足を床につける
  2. 身体を少し前に傾ける
  3. ゆっくり立ち上がる
  4. ゆっくり座る

という動作を繰り返します。

最初から回数を多くする必要はありません。体力に合わせて少ない回数から始めましょう。

立ち上がりに不安がある場合は、手すりや安定した家具などを利用してください。

かかと上げ

ふくらはぎの筋肉を使う簡単な運動です。

椅子につかまって行うかかと上げ運動

キッチンのシンクや安定したテーブルなどにつかまり、

  1. 両足で立つ
  2. ゆっくりかかとを上げる
  3. ゆっくり元に戻す

を繰り返します。

バランス運動

転倒予防を考えるなら、筋力だけでなくバランス能力も重要です。

たとえば、以下のようなものがあります。

片脚立ち安定したテーブルや手すりなど、すぐに掴まれる場所で片脚を床から浮かせ、姿勢を保ちます。椅子につかまって行う片脚立ち
継ぎ足立ち・継ぎ足歩行片方の足のかかとと反対側の足のつま先をつけるように一直線上に足を置きます。慣れている方は、その状態を繰り返すように前へ歩きます。かかととつま先をそろえて行う継ぎ足立ち
前後・左右へのステップ立った状態から片足を前・横・後へと一歩出し、元の位置に戻します。前後・左右へのステップ運動

しかし、身体機能が低下している高齢者では、転倒に十分注意して運動を行うことが必要です。

まずは、安全に身体を動かすことを最優先とし、徐々に難易度を上げていくことをおすすめします。

ウォーキングなどの有酸素運動

ウォーキングは特別な器具が必要なく、日常生活にも取り入れやすい運動です。

ただし、最初から「1日6,000歩」を目指す必要はありません。

現在の歩数や活動量を確認し、

「まず近所を10分歩く」
「買い物へ歩いて行く」
「今より少し遠回りする」

など、継続できる範囲から始めましょう。

暑さ・寒さや屋外での転倒が心配な場合は、ウォーキングマシンやエアロバイクなどを利用する方法もあります。

高齢者では、年齢だけでなく持病・身体機能・運動習慣によって適切な運動量が異なります。
運動中に、

  • 胸痛
  • 動悸
  • めまいやふらつき
  • いつもと違う強い疲れ
  • 関節や筋肉の強い痛み
  • 冷や汗などの体調変化

がみられた場合は運動を中止し、症状が続く場合は医療機関へ相談しましょう。

また、医師から運動を制限されている方や、運動によって症状が悪化する可能性がある方は、事前に医師などの専門職に相談してください

体力維持には食事・栄養も大切

身体を動かすことと同じくらい大切なのが食事です。

「体力が落ちてきたから運動を増やそう」と考えることは大切ですが、食事量そのものが少なくなっている場合には、身体をつくるための材料も不足してしまいます。

高齢者の体力維持では、

身体を動かすこと+必要な食事を取ること

の両方を考えましょう。

食事量が減っていないかを確認する

「健康のために何を食べればいいか」を考える前に、まず確認したいのが食事量が極端に減っていないかです。

高齢者では、

  • 食欲が落ちた
  • 買い物や料理が面倒になった
  • 一人で食べることが増えた
  • 噛みにくくなった
  • 飲み込みにくくなった

など、さまざまな理由で食事量が減ることがあります。

「バランスの良い食事」にこだわるあまり、必要な量そのものを食べられていなければ本末転倒です。

必要な食事量は、年齢や体格、活動量、持病などによって異なります。
まずは、以前より食べる量が減っていないか、意図せず体重が減っていないかを確認してみましょう。

たんぱく質源を毎食取り入れる

筋肉など身体をつくるうえで、たんぱく質は重要な栄養素です。

肉・魚・卵・大豆製品・乳製品などを、日々の食事に取り入れましょう。

「日本人の食事摂取基準(2025年版)」でも、高齢者におけるたんぱく質の重要性は考慮されていますが、フレイル予防を目的とした一律の摂取量を定めることは難しいとされています。

そのため、まずは毎食、たんぱく質を含む食品があるかを確認しましょう。

なお、腎臓病などで医師や管理栄養士から食事の指示を受けている場合は、その指示を優先してください。

水分も忘れずに

運動をするときには、食事だけでなく水分にも気を配りましょう。

特に暑い季節や長時間身体を動かす場合には、運動の前後を含めて水分を取ることが大切です。

一度に大量に飲む必要はありませんので、こまめに摂取するのがおすすめです。

食事が十分に取れないときは「原因」に合わせて考える

ここは非常に重要です。

「もっと食べましょう」と言われても、食べられない理由が解決されていなければ食事量は増えません。

高齢者の食事量が減っている場合は、「何を食べるか」だけでなく、なぜ食べられないのかを確認しましょう。

食欲が低下している

「食事の時間になっても食べたがらない」「最近食事量が減っている」という場合には、食欲低下の原因を考える必要があります。

体調だけでなく、活動量、生活リズム、薬、口腔内の状態など、さまざまな要因が関係することがあります。

食欲が落ちる原因や対処法を知りたい方は、「高齢者の食欲不振:原因と改善策を徹底解説」で詳しく解説しています。

噛みにくい・飲み込みにくい

噛む力や飲み込む機能が低下すると、それまで食べられていた料理が負担になることがあります。

むせが増えた、硬いものを避けるようになった、食事に時間がかかるといった変化がある場合には、食べ方や食事形態を見直す必要があります。

むせや飲み込みにくさが気になる場合は、「高齢者の嚥下機能を知ろう」で原因と対策を確認してください。

食べ方や食事形態などの対処法を知りたい方は、「嚥下食・やわらか食とは?作り方や選び方を解説」で詳しく解説しています。

買い物や調理が負担になっている

身体機能に問題がなくても、

「スーパーまで行くのが大変」
「毎日3食作るのがつらい」
「一人暮らしで料理をしなくなった」

という理由で食事内容が偏ったり、食事回数が減ったりすることがあります。

その場合は、「自分で毎食作る」ことだけにこだわる必要はありません。

家族のサポートや介護サービスに加えて、宅配弁当・宅配食を利用して食事準備の負担を減らすことも選択肢の一つです。

ただし、宅配弁当には価格・量・栄養・やわらかさ・注文方法など違いがあるため、その人に合うものを選ぶ必要があります。

宅配弁当についてよく知りたいという方は、「宅配弁当って何?メリット・デメリットから利用方法・種類まで徹底解説」で詳しく解説しています。

買い物や調理の負担を減らしたい方は、「高齢者向け宅配弁当の選び方・比較」で、冷凍・冷蔵の違いや料金・送料・利用条件を比較しています。

運動と食事を無理なく続けるコツ

体力維持で一番難しいのは、運動や食事について知ることではなく、実際の生活の中で続けることかもしれません。

生活の中に組み込む

「運動する時間をつくらなければ」と考えると負担になりやすいため、

  • 朝食後に少し歩く
  • テレビを見る前に椅子から数回立ち上がる
  • 買い物へ歩いて行く
  • 台所に立ったときにかかと上げをする

など、普段の生活に組み込むと続けやすくなります。

完璧を目指さない

毎日6,000歩歩けなかったからといって、意味がなくなるわけではありません。

10分歩けた日、家事を多くした日、少し筋トレをした日。

そうした活動も積み重ねです。

「何もできなかった」ではなく、「昨日より少し動けた」を目標にしましょう。

一人で抱え込まない

高齢になると、運動だけでなく買い物や食事準備そのものが負担になることがあります。

家族、医療・介護サービス、宅配サービスなどを利用しながら、無理なく続けられる環境をつくることも大切です。

まとめ|「食べる・動く」を続けることが体力維持につながる

高齢者の体力維持では、特別な運動だけを頑張ればよいわけではありません。

大切なのは、

  • 今より少しでも身体を動かす
  • 筋力・バランス・柔軟性などを意識する
  • 十分な食事量を確保する
  • たんぱく質を含む食品を意識する
  • 食べられない理由があれば原因に合わせて対策する
  • 無理なく続けられる方法を選ぶ

ことです。

体力を維持する目的は、「筋肉をつけること」そのものではありません。

自分で歩く、食べる、出かける、好きなことをする。

そんな今の暮らしを、できるだけ長く続けるためのものです。

いきなり完璧を目指す必要はありません。

まずは今日からできることを一つだけ始めてみましょう。

参考文献

  • 健康づくりのための身体活動基準・指針の改訂に関する検討会. 健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023. 2024.
  • 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会. 日本人の食事摂取基準(2025年版)策定検討会報告書. 2024.
  • 厚生労働省. 2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況. 2026.
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